省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅設計ガイドの要約(令和7年3月)
住宅の省エネ性能と断熱性を最大化することは、現代の住宅設計においてますます重要となっています。特に、「令和6年度 住宅設計ガイドブック」では、省エネ基準の新たな動向に対応した設計手法が詳しく説明されています。今回は、このガイドラインの要点を簡単にまとめてみました。
出典元:「令和6年度住宅設計ガイドブック」(日本建築学会)PDF
1. ガイド作成の目的と背景
近年、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが進んでおり、住宅分野における省エネや脱炭素の重要性がますます高まっています。特に、断熱性能の高い住宅はエネルギー消費の削減や快適な居住環境の提供において中心的な役割を果たしています。
令和5年度に発表された「住まい方ガイド」では、省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住まい手がどのように住みこなすべきかがまとめられました。しかし、住まい方と設計方法を両立させるための具体的な指針は不足していたため、設計者向けに**「設計ガイド」**を作成することとなりました。このガイドは、断熱性能を最大限に活かし、住まい手が快適で省エネな生活を送るために必要な設計ポイントを整理するものです。
2. 住宅性能表示制度における断熱等性能等級
断熱等性能等級とは?
断熱等性能等級は、住宅の断熱性能を示す重要な指標です。従来は「等級4」が最上級でしたが、等級6や等級7が新たに創設されました。これにより、住宅の断熱性能は大きく向上し、より快適で省エネな住環境を提供できるようになりました。
- 等級4(平成28年省エネ基準):冬期の室温が**8℃**を下回ることはない
- 等級6(ZEH+ハイグレード仕様):冬期の室温が**13℃**を下回らない
- 等級7:冬期の室温が**15℃**を下回らない
効果と省エネ
等級6および等級7の住宅は、暖房エネルギーの削減効果が大きく、例えば、UA0.46(等級6)では、一般的な暖房方式で省エネ基準と比べて約**55%**のエネルギー削減が可能です。さらに、住宅内の温熱環境の改善も顕著で、寒い冬でも快適な室温を維持できます。
3. 設計ガイドの構成と重要視点
このガイドでは、省エネ性能に優れた住宅設計のポイントとして、以下の3つの視点を中心に解説しています。
視点1:季節・方位・時間に応じた日射調整
高い断熱性能を活かすためには、日射の調整が非常に重要です。冬期の日射熱を効率的に取得するための設計や、夏期に冷房負荷を減らすための遮蔽方法が必要です。
- 開口部・開口部材の工夫:日射を調整するために適切な配置と設計が求められます。
- 外部の日射遮蔽部材:軒や庇を活用し、無駄な熱の取り込みを防ぎます。
- 外構や植栽:これらによる日射調整も有効です。
視点2:適切な暖冷房設備と換気設備
高断熱住宅は暖冷房のエネルギー効率が大きなポイントになります。適切な暖冷房設備の選定とその設置位置を考慮することが求められます。また、室内空気環境を快適に維持するための換気システムも重要です。
- 暖冷房設備の選定:断熱性を活かすため、無駄のない暖房方式を選ぶ。
- 空間構成の工夫:冬期や中間期の空間の通風・換気を利用した排熱。
- エネルギーマネジメント:設備機器の制御や運用方法も大切な要素です。
視点3:レジリエンス性の向上
断熱性が高い住宅は、災害時や非常時においても住環境を守る能力(レジリエンス)を高める可能性があります。具体的には、以下のような設備を備えることで、災害時の備えが可能になります。
- 太陽光発電システム:災害時の電力供給を確保。
- 蓄電池:停電時にも電力を使用できるようにする。
- 家庭用燃料電池(エネファーム)や高効率給湯機器も活用することで、エネルギー効率が向上します。
4. 設計者と供給者の役割
高断熱住宅の設計には、従来の住宅設計とは異なるアプローチが求められます。特に等級6や等級7の住宅においては、パッシブ設計とアクティブ設計の両方をバランスよく取り入れることが重要です。
- 日射取得と遮蔽、湿度管理、換気など、住環境の変化に応じた調整が必要です。
- 設計者や供給者は、住まい手と密にコミュニケーションを取り、実際の住まい方に合わせた最適な設計を提供することが求められます。
5. まとめ
省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅は、単なるエネルギー削減だけでなく、住まい手の快適性や健康をもサポートします。特に、等級6や等級7の住宅においては、高断熱化を進めるだけでは不十分で、住まい手の生活スタイルに適応した設計や住まい方が重要となります。設計者は、これらの要素を適切に組み合わせることで、より快適で省エネな住宅を実現することができます。
6. 詳細な設計のポイント
以下の項目についても、住宅設計において特に重要な要素となります。
1. 適切な暖冷房設備の選定
高効率なエアコン選定
エアコンの選定においては、冷房のエネルギー消費効率(冷房 COP)や暖房運転時の効率を考慮することが重要です。
- 冷房COPの計算式: 冷房COP=冷房能力 (kW)冷房消費電力 (kW)\text{冷房COP} = \frac{\text{冷房能力 (kW)}}{\text{冷房消費電力 (kW)}}冷房COP=冷房消費電力 (kW)冷房能力 (kW)
少ない台数で家全体を暖冷房
高断熱住宅では、少ないエアコンで効率的に家全体を暖冷房することが可能です。
- 吹抜けや開放型の階段を取り入れ、空間をつなげて温度調整します。
2. 気密性の確保
C値(気密性基準)
気密性は、エネルギー効率を大きく左右します。目標値は**C値0.7±0.2 ㎠/㎡**です。
施工の重要性
気密部材や高気密商品の採用、施工精度を向上させることで、より高い気密性を確保します。
3. 換気システムの選定
熱交換型換気システム
断熱性の高い家には、熱交換型の換気システムを選ぶことが推奨されます。全熱交換型と顕熱交換型があり、湿気の流入を防ぎます。
4. 夏型結露への配慮
冷房時の結露対策
冷房設定温度を低くしすぎないように注意し、冷気が躯体に直接当たらないように設置することが大切です。
7. 最後に
高断熱住宅を設計するには、単なる断熱材の選定だけでなく、住まい手のライフスタイルに応じた設計が重要です。これらのポイントを押さえながら、快適で省エネな住まいを実現しましょう。