脂肪肝は成人男性の3人に1人、成人女性の5人に1人が患っていると言われるくらいよくある疾患です。
本記事では、肝臓の機能の説明、健康診断における肝機能を示す検査結果の見方、脂肪肝の生じる理由、放置していると起こる最悪の事態、脂肪肝の改善方法について説明をします。
肝腎要=特に重要なことという意味ですが、ここに肝臓が入っていることからもいかに重要な臓器かということが分かると思います。脂肪肝を含めた肝臓に関するトラブルはよく聞く話ということもあって、健康診断で異常が出ても軽視されがちです。しかし、命に関わる問題に発展することもあるため、この記事を読んで是非理解を深めてください。
肝臓の機能の説明
肝臓は、体内では、脳の次に大きいと言われる巨大な臓器であり、1.5キロ程度の重さがあると言われています。心臓が300g程度なので、心臓の5倍程度の重さがあると考えればいかに大きい臓器かが分かると思います。肝臓は500以上の仕事をこなす働き者の臓器で、痛みなどを発生しない沈黙の臓器と言われています。そしてかなり頑丈な臓器で、正常な肝臓なら3分の2を切除しても、2週間程度で元の大きさに戻る再生力を持っています。もっと厄介なのは、8割程度が線維化などの疾患で機能しなくなっても、残り2割で働くため、自覚症状が出ないというのです。つまり、もし肝臓障害による自覚症状が出れば、すでに肝臓の8割以上が壊死などで機能していない可能性があります。ここまでやられるともはや肝臓を正常に戻すことは不可能になります。つまり肝移植以外に命が助かる方法がなくなる可能性が出てくるということです。この状況は進行した肝硬変と言われ、肝臓がんが発生している、もしくは数年以内に発生するリスクが非常に高い状態と言えます。
さて、肝臓には500もの働きがあると言いましたが、主要な機能は以下の4つとなります。
・代謝
皆さんが食べたものは、胃腸などの消化器官を通じて消化・分解されアミノ酸などの細かい栄養素になります。その後、これらの栄養素は肝臓に運ばれ、体の各器官が吸収できる形に変換され、全身に血管を通じて運ばれます。そして、体を動かすエネルギー生産の中枢も肝臓が担います。まるで、各地から運ばれてきた野菜などの材料をすべて加工して食品にして、全員のところに出荷する巨大工場のようです。もし肝臓がなかれば、胃腸などで分解された食材は体に吸収されることなく、体外に排出されます。栄養が摂取できないので、生存不可能になります。
・エネルギーの供給・貯蔵
脳の主要なエネルギー源であるブドウ糖(グルコース)を作り、貯蔵しているのが肝臓です。脳は24時間眠っている間も常にブドウ糖を必要としています。肝臓は絶えず、脳にブドウ糖を供給し、血糖値が上がりすぎることがないようにグリコーゲンという形で肝臓内に貯蔵し、血糖値のバランス、脳、その他筋肉を含めた全身への供給量などを常にモニタリングしながらエネルギーの供給と貯蔵を行っています。
・解毒
皆さんが肝臓の機能として真っ先に思い浮かべるのはアルコールの分解だと思います。肝臓の話が出てくる時は大抵アルコール関連の時です。アルコールは人体にとっては毒物であり、解毒の必要があります。アルコールを無毒化するのは、肝臓にとって重労働で、毒物の処理は、代謝などの他の作業より最優先になるため、アルコールを飲む人は、肝臓のその他の働きが鈍り、肝臓が栄養を処理する能力が落ち、中性脂肪が肝臓に溜まりやすくなります。その他肉などのタンパク質を摂ると発生するアンモニアという毒の処理や薬などを飲んだ時の薬物の処理などでも肝臓は常に解毒を強いられます。もちろん排気ガスやばい菌などが侵入したときの解毒も肝臓の役割です。
・胆汁の生成・分泌
胆汁は肝臓が作り出し、分泌する液のことで、小腸での脂肪の消化吸収を助けています。また古くなった赤血球や重金属を含めた肝臓内での働きで生じた不要物質を体外に排出する働きを持っています。さらに血中コレステロール値を調整する働きもあるのです。もし、肝臓が弱って胆汁が出なくなれば、眼球などが黄色くなる黄疸が出たり、全身にかゆみが生じたり、尿の色が濃くなったり、小腸が脂肪を分解できないため、脂肪がそのまま便として流れて、色の薄い便が出たりします。
これら4つが肝臓の主要な働きとなります。どれも必須の機能で生命維持の要と言っても過言ではないです。
健康診断における肝機能を示す検査結果の見方
肝臓の働きがいかに重要か理解したところで、肝臓が正常に機能しているかが心配なところだと思います。既に説明したように自覚症状が出るころは、ほぼ末期症状の場合が多いため、日ごろの健康診断の結果から、肝臓のダメージがどれくらい進行しているかを確認する必要があります。
ここでは、健康診断で出てくる主要な3つの指標を説明し、基準値以上になると何が問題か説明します。
・AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ) ※昔はGOTと言われていた
これは酵素(消化・吸収・代謝などの化学反応を促進するもの)の一種で、肝臓を始め、心筋や骨格筋にも多く含まれています。主に心臓や肝臓等の細胞が何らかの原因でダメージを受け、血液中に出てくるとASTの値が上昇します。ASTは体中の筋肉などにも含まれているため、過度な筋トレ後に筋肉組織が破壊され壊れた細胞が血液中に出てくると、ASTは上昇するので、ASTのみでは、肝臓のダメージか断定できません。
基準値は大抵30になっているので、30を超えていれば、何らかのダメージが生じていると考えてください。
・ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ) ※昔はGPTと言われていた
ALTこちらはほぼ肝臓に含まれているため、この数値が高い=肝臓がダメージを受けていて、肝臓の壊れた細胞が血液中に漏れ出ているということになります。ALTが高いということは、肝臓に何か疾患があるということになります。
基準値は30~40程度で、実施する健康診断によってまちまちですが、30を超えていれば脂肪肝などの可能性が高いと覚えておいてください。
他に病気がない、アルコールの摂取や食べ過ぎなどの心当たりがあれば、脂肪肝を真っ先に疑います。但し、アルコールが原因の場合は、アルコールがALTの合成自体を阻害する効果があり、ALTがASTよりも低く出る場合が多いです。なので、AST、ALTが高めで
AST>ALTの場合は、アルコールによる脂肪肝などの肝障害
ALT>ASTの場合は、暴飲暴食などの肥満による脂肪肝などの肝障害
を疑います。
・γ-GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)
肝臓の解毒作用に関係している酵素です。ほとんどの例でお酒を飲みすぎると上がる数値になります。大抵お酒を飲みすぎて、肝機能検査で引っかかる時は、この数値の上昇です。軽度な場合は、お酒をやめれば正常値に戻りますが、100以上になっている場合は、脂肪肝などの肝疾患を患っている可能性がありますし、ASTやALTも高値になっていれば、間違いなく脂肪肝などの肝疾患を持っている可能性が高いと言えます。
脂肪肝の生じる理由
ほとんどがアルコールが原因の場合と食べ過ぎ等による肥満が原因の場合に分かれます。
アルコール由来の脂肪肝は、アルコールを飲みすぎた時に、アルコールの分解のために肝臓が働きますが、その時幹細胞の中での脂肪の入れ替わりがうまくできなくなり、肝臓に中性脂肪が溜まり、フォアグラのような脂肪たっぷりの肝臓になります。
食べ過ぎによる脂肪肝は分かりやすく、余分な糖質や脂肪を肝臓が処理しきれなくなり、肝臓に脂肪をため込むことが原因です。
実は脂肪肝自体は病気ではなく、肝臓の機能自体に影響を与えているわけではないです。自覚症状もなく、国民病と言えるくらい多くの人が抱えている疾患で、あまり重要視されていないものであるため、結構多くの方が実は脂肪肝であるが、放置されているのが現状です。
血液検査の結果だけでは、ALTなどが上昇しているのが分かっても、実際にエコーやCTなどで肝臓を見てみないと脂肪肝というのは分かりませんし、ほとんどの方が血液検査で異常が出ても放置しているので、多くの脂肪肝は放置されているのが現状です。
放置していると起こる最悪の事態
ほとんどの方の認識=自覚症状が出てから対応すれば間に合うでしょ?
だと思います。結論を先に言いますが、自覚症状が出てからでは手遅れです。
脂肪肝を放置していると、脂肪肝のまま推移して結局何も問題ない方も多くおられますが、一部は慢性肝炎に進展して、数年~15年程度続くと肝硬変になり、肝臓がんへとなっていきます。実は恐ろしい事実ですが、一度慢性肝炎に移行すると、原則戻れないという不可逆性を持っています。脂肪肝は、単に肝臓に脂肪がついているだけなので、ダイエットなどで脂肪を落とせば、もとの元気な肝臓に戻せるのですが、もし脂肪肝が脂肪肝炎という慢性肝炎に移行すると、肝臓は炎症を起こし続け、どんなにダイエットしても戻らない可能性が高いです。最新の研究では、食事制限や運動療法で治せる可能性も示唆していますが、治らない可能性も多いにあるため、非常に怖い状況です。
何が怖いかというと、現在健康診でALTが30を超えている方は、脂肪肝である可能性が高く、どのステージにいるのかが分からないということです。一般的に脂肪肝炎になっても自覚症状はないです。なので、本人は軽度な脂肪肝かなと思っていたら既に慢性肝炎になっていて、肝硬変に向かっている最中かもしれないということです。
アルコール性の脂肪肝炎をASHといい、非アルコール性の脂肪肝炎をNASHといいます。これらの疾患は現在増えてきており、一部の見解では15年生存率が75%などの厳しい数字も出ているくらいです。脂肪肝は、生活習慣によって生じる例がほとんどで、生活習慣を改めれば、完治する例がほとんどです。それを放置することでASHやNASHになり、取返しのつかないことになれば、悔やんでも悔やみきれないと思います。
ご自身の血液検査の結果を見て、ALTなどの数値が高い方は、すぐに生活習慣を改め、暴飲暴食をやめ、規則正しい食生活、運動習慣、禁酒などを徹底すべきだと思います。
現在の状況が心配な方は消化器内科等で超音波検査をお願いし、肝臓の状態を見てもらうことをお勧めします。一般的に5%減量すれば、脂肪肝は改善すると言われています。
一番恐ろしい事態は、肝硬変になってから自覚症状が出て、焦って病院に行き、検査をすると肝硬変だけでなく、肝臓がんも見つかる例です。この状態では、肝臓がんの治療だけでなく、肝移植も必要になりますし、肝臓は、体中とつながる中枢の臓器のため、がんが転移するリスクもありますし、肝臓がんは再発リスクが非常に高いがんとして有名です。
後悔先に立たずで、元気なうちに脂肪肝を治すことが先決です。
脂肪肝の改善方法
最後に脂肪肝の改善方法をお伝えします。と言っても非常にシンプルで、アルコールをよく飲む人は禁酒するか、どうしてもやめれない方は休肝日を多めにとったり、量を減らしたりで様子を見てください。食べ過ぎが原因の方は腹8分目を心がけて、様々な食材をバランスよく食べてください。食べる時間も重要で、就寝前2時間をさけたり、お菓子などの間食も控えるようにしてください。お腹がすいた場合は、フルーツやナッツ、チーズなどを食べるのがおすすめです。そして、日々の運動が大切です。ウォーキングやランニングなどの有酸素運動と筋トレが効果的です。筋トレも本格的でなくてもスクワットなどを自重で毎日やるだけでも効果的です。
このような生活習慣は、脂肪肝だけでなく、あらゆる病気の予防につながるので絶対に実践したほうが良いです。
もちろん睡眠もしっかりとるようにして、呼吸も意識すると良いです。意識的に深呼吸をしましょう。
私達は健康をないがしろにして、他のことに没頭してしまいますが、健康が何よりも大切なのは自明の理です。脂肪肝の方も脂肪肝を改善するときっと体が軽くなり、趣味に仕事に今以上に没頭できるはずです。
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