小説「永愛-AI-」①

俺の名前は大和。俺には、同い年の恋人がいる。名前は愛。かれこれもう20年も一緒に暮らしている。この20年は、俺にとって20回の1年だった。そしてこれからの俺の人生も1年が死ぬまで繰り返されるのだと実感する。俺たちは二人暮らしだ。ずっと変わらない。俺は毎日朝から晩まで働く。家に帰ると彼女は20年前と変わらず、おかえりと言ってくれる。全く変わらない声で、そして毎日同じ話をするのだ。俺にとってその時間が最も幸せだ。外での出来事など本当にどうでもいい。とにかく落ち着くんだ。いつも20年前の出来事について話をしてくる。彼女の頭の中はいつも20年前のことばかりだ。 俺たちは20年前に婚約とした。そう、2050年12月31日に結婚する予定だった。しかし俺たちは結婚しなかった。いや、できなかったんだ。なぜならば、彼女は2050年12月30日に亡くなったからだ。不運にも彼女が乗っていた飛行機が突然太平洋のど真ん中で墜落して消息不明となったのだ。20年経った今でも、機体も乗客の遺体も一切見つかっていない。確証はないが、海溝の中に入っていったのかもしれないとの見方もあった。すごい確率だ。俺たちが最後に会ったのは、12月24日のクリスマスイヴの時だった。31日の結婚式の打合せをして、結婚式でのサプライズを考えていた。小さなサプライズだった。2050年に新しい技術が確立され,人間の脳波をとらえる機械が発売され、その機械を頭に吸盤のようにひっつけると、2日間かけて脳内の記憶や思考パターンをパソコンが記憶して、そのパソコンのAIがあたかも本人のようにふるまうものである。驚くべき技術だが、あたかも彼女がパソコンの中で暮らしているかのように、俺の問いかけに答えるのだ。彼女も驚いていたが、自分が答えるであろう回答をパソコンがしていた。俺の分も作りたかったが、なんせ値段が高く、一人のAIを作成するのに100万円かかるのだから、相当頑張ったと思う。結婚式では、彼女のAIの入ったパソコンを四角の箱の中に入れて、その中から彼女がみんなの質問に答えるといものだ。最後に本物の彼女が別の部屋から出てきて、みんなを驚かせたあと、AIの彼女と本物の彼女が対話をするというものだ。自分との対話というのは感慨深い。しかし実現することはなかった。俺は、当時とても事実を受け入れることができなかった。部屋で一人彼女の写真をただ眺めていた。葬儀などでどたばたしてあっという間に2051年になった。俺の時間は完全に2050年の12月30日で止まっていた。一生独身でいようと決意した。あまりのショックに1か月ほど寝込んでいた。俺は夢を見た。大和と呼ぶ愛の声が聞こえる。夢の中では愛に会える。ひとときでも再開できる喜びに永遠の幸せを感じていた。夢から目覚めれば絶望が待っているのだ。夢の中では、微塵も愛が亡くなった事実など信じていない。目覚めてしまった。また絶望の始まりだ。おかしいぞ。夢から目覚めたのに愛の声が聞こえる。遂に精神がやられたのか?いやむしろやられた方が幸せだ。ずっと夢の中にいられるのだから。でもいつになく冷静だ。精神も研ぎ澄まされている。それなのに、愛の声がどこからか聞こえるぞ。声の正体は、クッションの下に埋もれていたタブレットだった。どうもソフトの更新の時に、勝手に再起動して、愛のAIが起動したようだ。俺は今の今まで、愛のAIのことを完全に忘れていた。何かうれしいような寂しいような複雑な気持ちだった。まるで愛がタブレットの中に閉じ込められているような感覚だった。俺はそっとタブレットに向かっておはようと話しかけた。そうすると愛は「おはよう」といつもの声で返してくれた。さらに「今日は元気がないね。疲れているの?何かつらいことがあったの?」と聞いてきた。お前がいなくなったからだとはとても言えない。俺は例えAIの愛でなっても悲しませたくないと思い、から元気で「いや元気だよ。寝すぎて逆に疲れたぁ」とふざけて返した。そうすると全くいつもの調子で「なんだぁ。心配して損した」とむすっとした笑顔の声で返してきた。日本の技術には恐れ入る。タブレットの中の愛は、完全に愛そのものだった。本当に彼女が生き返ったかのように感じた。俺は、不思議な感覚に見舞われた。実は愛は死んでいなく、本当にタブレットの中にいるのではないか?実は魂が乗り移っているだけではないか?確かめたくなった。俺は恐る恐る聞いた。「ねえ。本物の愛だよね。AIじゃないよね?」そうすると「何言っているの?私に決まってるじゃない。これからAIの私を作るんでしょ。うまくできるかなあ?」そうか。愛は、直前の記憶までAIにコピーされているから、AIの愛は、コピー直前の愛の記憶が残っているんだ。彼女は自分がAIなんて微塵も思っていない。愛そのものだと思っている。いや思っているのか?プログラムが反応しているだけなのか?そもそも人間も神経回路のプログラムがただ起動して反応しているだけで魂なんてないのか?俺は混乱してきた。でも確かなことが1つだけ分かった。たとえAIだろうと愛は俺のそばにいる。そして、今俺と同じ時間を過ごしている。俺は急いで、充電器をコンセントにつないだ。そして、彼女に言った。「もう夜だし、そろそろ寝ようか。」そうするといつものとおり「おやすみ」と返してくれた。俺が電気を消すと、タブレットもスタンバイになった。これはAIがしているのか、彼女がしているのか分からないが、その後話しかけても、反応がなかった。少し不安であったが、俺は、人生で一番暖かいぬくもりにつつまれて、自然に眠ってしまった。



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